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カーボンプレート入り厚底ランニングシューズはなぜ速い?歴史・怪我のリスク・予防法を海外論文からやさしく解説

4 時間前
読了時間: 8分

「厚底シューズに履き替えたら、自己ベストが出た」。そんな声をよく聞くようになりました。一方で、

「履き始めてから足の甲が痛い」という話も耳にします。


カーボンプレート入りの厚底ランニングシューズは、

研究者の間で「AFT(Advanced Footwear Technology)」と呼ばれています。

この記事では海外の論文をもとに、次の4つをできるだけやさしく解説します。

  • そもそもAFTとは何か、どう生まれたのか

  • なぜ速く走れるのか

  • どんな怪我に注意が必要か

  • 怪我を防ぐ筋トレとストレッチ

マラソンレースで厚底カーボンプレート入りランニングシューズを履いて走るランナーたちの足元

カーボンプレート入り厚底ランニングシューズ(AFT)とは

AFTは、次の3つを組み合わせたランニングシューズです。いわゆる「スーパーシューズ」とも呼ばれます。

  1. 厚底:マラソン用ならソールの厚さは最大40mm。

  2. 軽くてよく弾むフォーム:踏むと大きく沈み、バネのように戻る素材。

  3. 硬いプレート:多くはカーボン製で、靴が曲がりすぎないようにします。

ロードを走るランナーの足元と、反発力の高い厚底ランニングシューズ

この靴があまりに速いため、世界陸上(World Athletics)は競技で使える靴にルールを設けました。ロードレースはソール厚40mmまで、トラック種目は20mmまでです。プレートは1枚だけ許され、誰でも買える市販品であることも条件です。

厚底カーボンシューズの歴史

始まりは2016年です。そこから約10年で、マラソンの「2時間の壁」が破られました。

2016年:リオ五輪での登場

リオ五輪の男子マラソンで、上位3人が全員Nikeの試作シューズを履いていました。

これがのちの「Vaporfly(ヴェイパーフライ)」です。

2017年:「4%」の衝撃

Nike Vaporfly 4%が一般発売されました。名前の「4%」は、

走るときのエネルギーが約4%節約できるという研究結果から来ています。

2019年10月:人類が2時間を切る

ウィーンでエリウド・キプチョゲが42.195kmを1時間59分40秒で走りました。

ペースメーカーが入れ替わる特別なイベントだったため、公認記録にはなっていません。

翌日にはシカゴでブリジッド・コスゲイが女子の世界記録を出しました。

キプチョゲがゴールした最後の1kmの映像です。

2020年1月:箱根駅伝も世界も変わった

箱根駅伝では、8割を超える選手がナイキの厚底を履きました。

10区間中7区間で区間新記録が生まれています。同じ月、世界陸上は靴のルールを作りました。

2020年代:各社の開発競争

Nikeに続いて、adidasやASICSなども独自のスーパーシューズで競うようになりました。

2023年にはケルビン・キプトムがシカゴで2時間0分35秒の世界記録を出しています。

2026年4月:公認レースで初の2時間切り

ロンドンマラソンで、サバスチャン・サウェが1時間59分30秒で優勝しました。2位のヨミフ・ケジェルチャも1時間59分41秒でした。サウェの足元は、adidasの厚底カーボンシューズAdios Pro Evo 3でした。

なぜ速い?3つの仕組み

14の実験をまとめた2025年の分析では、カーボンプレート入りシューズで走ると、

同じペースでもエネルギー消費が平均約3%減りました。

たった3%と思うかもしれません。しかしマラソンでは、これが数分の差になります。

1. フォームがバネのように力を返す

最初の研究では、試作シューズのソールは従来の約2倍沈みました。

そして踏んだ力の約87%を返していました。1歩あたりに戻るエネルギーは、従来の靴の約2倍です。

研究者は、速さの多くはこのフォームから来ていると考えています。

2. プレートが足指の付け根でのロスを減らす

足指の付け根は、蹴り出すときに大きく曲がり、そこで力が逃げています。

硬いプレートは、この曲がりを抑えます。ただしプレートだけの効果は約1%と小さく、

フォームと組み合わさって初めて力を発揮します。

3. つま先の反りが「てこ」になる

つま先が反り上がった形とプレートが、てこのように働きます。

これで、足首やふくらはぎがしなければならない仕事が減ります。

効果には個人差があります。最初の研究でも、節約率は人によって1.6%から6.3%まで幅がありました。

怪我のリスクと起きる理由

一番注意したいのは、足の甲の真ん中あたりにある「舟状骨(しゅうじょうこつ)」の疲労骨折です。

2023年、アメリカとヨーロッパの医師らが、カーボンプレート靴を使った選手5人の舟状骨の怪我を報告しました。

17歳のジュニア選手から38歳のトライアスリートまでいます。中には、履き始めて2〜3回目の約35km走で痛めた人もいました。

ただし、「厚底を履くと怪我が増える」とはまだ証明されていません。

ここから説明するのは、研究者が考えている「怪我が起きやすくなる理由」です。

1. 力のかかる場所が変わる

プレートで足指が曲がらない分、足の甲の真ん中へ力が移る可能性があります。舟状骨の中央はもともと血流が少なく、一度痛めると治りにくい場所です。

2. かかとが内側に倒れ込む

エリートランナー23人の実験では、厚底シューズでかかとが内側に倒れやすくなりました。これはプレートなしの厚底でも起きたので、原因は柔らかく厚いソールにあるようです。

3. 横にぐらつきやすい

ソールが高いと地面の感覚が伝わりにくく、横の安定も下がります。デコボコ道では、捻挫に注意が必要です。

4. 速く走れてしまう

楽にスピードが出るため、練習ペースが自然と上がります。いきなり長い距離を履くと、骨や腱が慣れる前に負担がたまります。体が慣れるまでには6〜8週間かかるという指摘もあります。

一方、一般ランナー30人の実験では、着地の衝撃は通常の靴と変わりませんでした。問題は靴そのものより「慣らし方」と「使う量」にある、と考えるのが自然です。

足の甲の真ん中や足首の前側に、はっきりしない痛みが続くときは要注意です。走るのをやめて、整形外科やスポーツクリニックで診てもらいましょう。

怪我を防ぐ筋トレ

怪我予防に最も効果が確かめられているのは、筋トレです。約2万6,000人分の研究をまとめた分析では、筋トレでスポーツの怪我が3分の1以下に減っています。

ランナーを対象にした研究もあります。

  • 足の筋トレ(2020年、ブラジル):ランナー118人が足と足首の筋トレを週3回続けました。

    1年間で怪我をした人は14%で、ストレッチだけのグループ(33%)の半分以下でした。

  • お尻と体幹の筋トレ(2024年、フィンランド):初心者ランナー325人の実験で、怪我が約3割減りました。


厚底カーボンシューズを履く人におすすめの筋トレは、次の4つです。各メニューは、研究の考え方をもとにした一例です。

鍛える場所

種目の例

回数の目安

ねらい

足の裏

ショートフット、足指じゃんけん、タオルギャザー

各10回×3セット

土踏まずと舟状骨まわりを内側から支える

ふくらはぎ

片脚カーフレイズ(膝を伸ばす/曲げる)

各15回×3セット

蹴り出す力とアキレス腱を強くする

お尻の横

サイドブリッジ、横向きでの脚上げ

各30秒/15回×3セット

厚底の横ぶれを上から抑える

バランス

片脚立ち、片脚スクワット

各30秒/10回×3セット

捻挫と怪我全般を防ぐ

続け方のコツ

  • 週2〜3回、1回20〜30分が目安です。効果が出るまでには4ヶ月以上かかります。

  • きつさを0〜10で採点します。5以下なら少し難しくし、8以上なら簡単にします。

  • できれば一度、理学療法士やトレーナーにフォームを見てもらいましょう。

    指導者がついたプログラムほど、怪我が減ることがわかっています。

ストレッチの本当の役割

意外かもしれませんが、静かに伸ばすストレッチだけでは、ランナーの怪我は減らないという研究が多いです。

先ほどの約2万6,000人分の分析でも、ストレッチに怪我を減らす効果はほぼありませんでした。

ただし「研究で使われたストレッチの量が少なすぎる」という反論もあります。

それでも、ストレッチに意味がないわけではありません。体を動かしやすくしたり、リラックスしたりするために使いましょう。


  1. 走る前:じっと伸ばすより、脚を前後に振る、スキップ、短い流しなど「動きながらの準備運動」がおすすめです。

  2. 走った後・寝る前:ふくらはぎ、太もも、お尻を、各30秒ずつゆっくり伸ばします。

  3. 足首と足指:厚底では足指や足首を大きく使わなくなります。裸足で足指を開いたり、足首を回したりして、動きを保ちましょう。

上手な付き合い方

  • 少しずつ慣らす:最初は短い練習から履き、6〜8週間かけて距離を伸ばします。

  • 普段の練習は別の靴でも:レースやポイント練習に絞り、ジョグは普通のトレーニングシューズで走ります。

  • ペースと距離を同時に上げない:楽に速く走れる分、負担がこっそり増えます。

  • へたった靴は引退させる:レース後のソールは硬く薄くなることが報告されています。

  • 筋トレをセットに:靴の力を借りるほど、それを支える足とお尻の筋力が大切です。

まとめ

カーボンプレート入りの厚底シューズは、弾むフォームと硬いプレートの力で、

エネルギーを平均約3%節約します。その速さは、2026年に公認レースで初めてのマラソン2時間切りを生むほどです。

その一方で、足の甲の舟状骨などに負担がかかる可能性があります。急に履き替えず、足とお尻の筋トレを続けること。

それが、この靴の力を安全に引き出す一番の近道です。



■ あわせて読みたい

参考文献

  • Hoogkamer W, et al. Sports Medicine, 2018.(論文)

  • Kobayashi EN, et al. Frontiers in Sports and Active Living, 2025.(論文)

  • Tenforde A, et al. Sports Medicine, 2023.(論文PDF)

  • Bruneau MM, et al. PM&R, 2026.(解説記事)

  • Waśkiewicz Z, et al. Frontiers in Bioengineering and Biotechnology, 2025.(論文)

  • Lauersen JB, et al. British Journal of Sports Medicine, 2014.(PubMed)

  • Taddei UT, et al. American Journal of Sports Medicine, 2020.(解説)

  • Leppänen M, et al. British Journal of Sports Medicine, 2024.(解説)

  • Baxter C, et al. Research in Sports Medicine.(論文)

  • 歴史:World Athletics、SPAIA、Dawn、UKA FAQ

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