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乳酸ジェルから1x化まで:2026年エンデュランス界トレンド総まとめ

11 分前
読了時間: 12分

はじめに:2026年は「史上最速のツール」だった



2026年のツール・ド・フランスは、平均時速43.328km/hで大会史上最速を記録しました。

前年の42.849km/hを0.5km/h近く上回り、2023年の41.134km/hからはわずか3年で2km/h以上も速くなっています。

この速さを支えているのは、選手のフィジカルだけではありません。

レース中に何をどれだけ食べるか、暑さとどう戦うか、どんな機材を選ぶか。そのすべてが徹底的に最適化された結果です。

この記事では、2026年のロードレースとトライアスロンで話題になった補給食・トレーニング・機材のトレンドをまとめます。

各章の最後には、私たち市民ライダーが真似すべきかどうかを3段階で判定しました。


  • ◎ 真似する:効果がはっきりしていて、取り入れやすい

  • △ 様子見:話題だが効果や費用面でまだ判断が難しい

  • × 不要:プロ特有の事情があり、一般ライダーには必要ない


補給① 炭水化物は「1時間120g」が当たり前に

ひと昔前まで、レース中の炭水化物は「1時間60g」が目安でした。2010年以前のプロは30〜60g程度だったと言われています。

それが今では、グランツールで120gを下回る選手は珍しいと、WorldTourチームの栄養士たちが証言しています。

2026年のツールでは、さらに上を行く数字も出てきました。

ヴィンゲゴーやファンエートフェルトは最もきついステージで1時間140g、

ヨナス・アブラハムセンは160gを目標にしていたと報じられています。

160gは、大袋のグミを毎時1袋、それを5時間続けるような量です。

ポガチャルも春のクラシックでは130gを摂っていたと明かしています。


なぜそんなに食べられるのか

カギはグルコースとフルクトースの組み合わせです。

2種類の糖は腸の別々の「入口」から吸収されるため、組み合わせることで1時間に吸収できる量が大きく増えます。

さらに選手たちは、練習中から少しずつ摂取量を増やして胃腸を慣らす「腸のトレーニング」を行っています。

2026年にはUCI(国際自転車競技連合)が科学者とWorldTourチームを集めた「スポーツ栄養プロジェクト」で、

この変化を初めて公式に記録しました。研究者からは、

2016年から使われているアメリカスポーツ医学会(ACSM)の栄養ガイドラインを見直すべきだという声も上がっています。

ただし、注意点もあります。研究の8割以上は一般や若年のアスリートが対象で、

エリート選手を対象にしたものは5%未満です。また、暑さの中では炭水化物を燃やす効率が20〜30%落ちるというデータもあります。


市民ライダーへの判定:◎ 真似する(ただし段階的に)

いきなり120gを目指すのは禁物です。まずはグルコース+フルクトース配合の製品で1時間60gを安定して摂れるようにしましょう。

長めの練習で少しずつ量を増やし、水分は1時間500〜750mlを一緒に摂るのが基本です。


補給② ポガチャルの秘密兵器「乳酸ジェル」


2026年のツールで最も話題をさらった補給食が「乳酸ジェル」です。ポガチャルとUAEチーム・エミレーツXRGは、

イタリアのEnervitが開発した「C2:1PRO Lactate Gel Mix」を使っていたことをチームとメーカーが公式に認めました。


乳酸は「疲労物質」ではなかった

「脚が焼けるように痛いのは乳酸のせい」。そう教わってきた人は多いと思います。

しかし実際には、乳酸は筋肉、心臓、脳が直接エネルギーとして使える燃料です。

これは1985年にカリフォルニア大学バークレー校のジョージ・ブルックス教授が提唱した「乳酸シャトル理論」で示されてきたことで、運動生理学の世界ではすでに定説になっています。

乳酸の吸収は炭水化物とは別のルートで行われます。そのため、炭水化物を吸収できる上限まで摂ったうえで乳酸を上乗せすれば、

1時間に使えるエネルギーの総量を増やせる、という理屈です。


2つの代表的な製品

| | Enervit C2:1PRO | ExoLactate | | --- | --- | --- | | 使用チーム | UAEチーム・エミレーツXRG | 非公表の1チーム | | 中身(1回分) | 炭水化物90g+乳酸10g | 炭水化物40g+乳酸5g | | 形状 | 水で溶くジェルミックス(ボトル1本分) | ジェル | | 価格 | 約10ドル/回 | 約5ユーロ/本 | | 開発者 | ブルックス教授、サン・ミジャン博士ら | アイトール・ビリバイ(元イネオスの生理学者) |


Enervitの製品はブルックス教授と、ポガチャルの元コーチであるイニゴ・サン・ミジャン博士が開発に関わり、

UAEの選手たちが2年間テストしてきました。

メーカーは、ペースを上げる必要があるレースの最後の1〜2時間で飲むよう推奨しています。

10月に一般販売が始まりましたが、日本での取り扱いは執筆時点で未確認です。


効果はまだ「未証明」

期待は大きいものの、科学的な裏付けはまだ十分ではありません。

研究の多くはマウスを使ったもので、人間での研究結果はまちまちです。

一般の運動愛好者を対象にした試験ではVO₂maxや乳酸閾値の改善は見られず、

小規模な予備研究で20分TTの出力が4%上がったという報告がある程度です。

乳酸カルシウムを使った別の研究では、胃の不快感やガスが増え、パフォーマンスの改善もありませんでした。

選手からは「きつさの感じ方が下がった」という声も出ていますが、

これはあくまでレース中の感想で、管理された試験の結果ではありません。


市民ライダーへの判定:△ 様子見

1回分約1,500円(1ドル150円換算)と、一般的なジェルの2倍以上の値段です。効果が証明されるまでは、

まず炭水化物補給の基本を固めるほうが確実です。どうしても試したい場合は、練習で胃腸との相性を確かめてからにしましょう。


補給③ 重炭酸ナトリウムと「塩分」

乳酸ジェルほど目立たないものの、プロの現場で定着しつつあるのが重炭酸ナトリウム(いわゆる重曹)です。

高強度で走ると筋肉の中に水素イオンがたまって酸性に傾き、パワーが落ちます。

重炭酸ナトリウムはこれを中和する働きがあります。以前はTTのような短い種目で使われていましたが、

今ではトップチームが長いワンデーレースやステージレースでも使うようになりました。

休みを挟みながら繰り返すアタックにも効果があるとされているためです。

弱点だった胃腸のトラブルも、ハイドロゲルで包んだ製品(MaurtenのBicarb Systemなど)の登場で軽減されています。

一般的な目安は体重1kgあたり0.3gで、体重70kgなら約21gを、重要な走行の約2.5時間前に摂ります。

もう一つ、トライアスロンを中心に重視されているのがナトリウム(塩分)です。詳しくはトライアスロン編で紹介します。


市民ライダーへの判定:△ 上級者向け(試すなら必ず練習で)

効果の研究は比較的進んでいますが、量を間違えるとお腹を壊すリスクがあります。

レースで使うなら、事前に何度か練習で試してからにしましょう。


トレーニング:暑熱順化と「量より質」

深部体温を「パワーメーターのように」測る

2026年のツールは猛暑に見舞われ、UCIが給水のルールを緩めて補給地点を増やすほどでした。

こうした暑さ対策の中心にあるのが「暑熱順化トレーニング」です。

い環境であえて練習し、汗をかき始めるタイミングを早めるなど、体が熱を逃がす能力を高めます。

その道具として広まったのが、スイス製の深部体温センサー「CORE」です。

心拍計のストラップに付けて使い、皮膚の温度と熱の流れから深部体温を推定します。

UAEチーム・エミレーツXRGは2026年シーズンからCOREと正式に提携しました。

EFプロサイクリングは、ベン・ヒーリーが暑熱トレーニングのブロック後、

30℃を超える環境で330Wを維持できる時間が30分近く延びたと紹介しています。

メーカーが推奨する頻度は、週2〜3回、1回45〜60分です。

ただし、COREが表示するのはあくまで推定値です。測定精度については研究者から疑問の声もあり、

熱中症を防ぐ安全装置として頼るべきではありません。

レース直前の冷却も工夫されています。ネットカンパニー・イネオスはチームTTの前にアイスベストを着て、

前腕を氷水に浸していました。脚の筋肉の温かさは保ったまま、体の中心の温度だけを下げる狙いです。


「長くゆっくり」から「質の高い練習」へ


練習の量についても考え方が変わってきました。週30〜40時間の練習を積む昔ながらのスタイルより、少ない量でも質の高い練習を続けるほうが速くなる選手が出てきたためです。

人気のゾーン2トレーニングについては、週の練習時間で選ぶのが現実的とされています。週12時間以上ならゾーン2中心の80/20(ポラライズド)、週8時間未満ならスイートスポットを取り入れたピラミッド型が向いている、という整理です。

一方、プロもよく行う低ケイデンス(50〜70rpm)の練習は、研究では通常ケイデンスより優れるという結果がほとんどなく、必須ではないとされています。


市民ライダーへの判定:◎ 暑熱順化は真似する/センサーは△

日本の夏の暑さを考えれば、暑熱順化は取り入れる価値が大きいでしょう。センサーがなくても、暑い時間帯に強度を抑えて走る、室内ローラーで暖かめの環境にするといった方法で始められます。ただし体調管理を最優先にしてください。


ロード機材:タイヤ幅・ショートクランク・1x

「最速のタイヤ幅」は状況次第

ここ数年は「太いタイヤほど速い」という流れでしたが、2026年のツールでは選択が分かれました。

ポガチャルはロードバイクに28c、TTバイクにはあえて25cのタイヤを選びました。

一方、ヴィスマ・リースアバイクはTTバイクに30cを採用しています。

正解はコースや路面、ホイールとの組み合わせ次第、というのが現場の答えです。

市販車では、リムの内幅が17mmから21〜23mmへと広がり、太めのタイヤを前提とした設計が主流になっています。


クランクは短く、ハンドルは狭く

ポガチャル、ヴィンゲゴー、エヴェネプールといったトップ選手は、165mm以下の短いクランクに移行しています。

ヴィンゲゴーとポガチャルはTTバイクに160mmを使っていました。深い前傾姿勢でも股関節が詰まりにくくなるのが理由です。

ハンドルも狭いままです。UCIの新ルールで外側の幅は400mm以上と決められましたが、

3人ともブラケット部分は400mm未満にし、ドロップ部分を広げて規定を満たしていました。


ロードでも「フロントシングル(1x)」

目を引いたのは、ヴィンゲゴーのCervélo S5です。フル装備のエアロロードでありながら、

フロントシングル(1x)構成で重さ6.81kgと、UCIの最低重量6.8kgぎりぎりでした。

ただし、ヴィーベスがジロ・ドンネで重量制限を20g下回って失格になった例もあり、攻めすぎは危険です。

市販車でも完全ワイヤレスの電動変速が中級以上の標準になり、

「電動にするか」より「どのギア比が自分に合うか」が話題になっています。


市民ライダーへの判定

  • ◎ 真似する:ワイドリム+28〜32mm程度のタイヤ。乗り心地が良くなり、荒れた路面ではむしろ速い

  • △ 様子見:ショートクランク。合うかどうかはフィッティング次第で、ギア比の見直しも必要になる

  • × 不要:ナローハンドルや重量制限ぎりぎりの軽量化。安全性や扱いやすさを優先したい


トライアスロン編:ナトリウム・冷却・エアロバー

2026年10月、アイアンマン世界選手権は男女そろってハワイ・コナでの単日開催に戻りました。これをきっかけに各ブランドが開発予算を再び投じ、久しぶりに新製品やプロトタイプが会場にあふれました。キーワードは「見た目より機能」です。


補給:ナトリウムとハイドロゲルが公式に

2026年から、Precision Fuel & Hydration(PF&H)がアイアンマンと70.3シリーズの公式ハイドレーションパートナーになり、

全レースのコース上で電解質ドリンク「PH 1000」が提供されています。

ナトリウムは1Lあたり1,000mgで、一般的なスポーツドリンクの約2倍です。

PF&Hによると、平均的な人は汗1Lあたり約950mgのナトリウムを失うためです。

ジェルはMaurtenのハイドロゲル製品(Gel 100、カフェイン入りのGel 100 Caf 100、固形のSolid)が公式で、

コース上で手に入ります。

戦略面では、ランに入る前、摂りやすいバイクパートで炭水化物と水分を多めに入れておく「前倒し補給」が定番です。

アイアンマン全体での汗によるナトリウム損失は4,000〜6,000mgを超えることもあり、水とジェルだけでは補いきれません。


機材:お金は「エアロバー」に流れている

毎年恒例のコナ・バイクカウント(出場者のバイクの集計)では、興味深い変化が見えました。

  • バイク:Canyonが5台に1台から4台に1台へとシェアを拡大。Canyon、Cervélo、Trekの上位3社で出場者の半分以上を占める

  • ホイール:完成車に付属するホイールをそのまま使う人が増え、完成車に標準で付くホイールや自社ブランド品が約3分の2に

  • エアロバー:浮いた予算は、モノバー型などの新世代エアロバーに。FastTT(新登場で5.9%)やDrag2Zero(3.5%)が急伸

  • ドリンクマウント:新しいエアロバーに組み込めるかどうかが決め手に。リア用はEZ Gainsが20%超、

    フロント用はTriRigが1%未満から12%超へ急伸


暑さ対策ギアと注目の新製品

  • Omius Airshade(約100ドル):サングラスに付けるバイザーで、ルーバー(羽板)で涼しい風を顔と額に送る。

    見た目の奇抜さで会場の話題をさらった

  • ドリンクの断熱カバー:Canyonのプロのほぼ全員が、フロントのドリンクモジュールに断熱・反射カバーを装着。

    風防付きのコックピットは熱がこもりやすいため

  • Ekoi Tri Aero(675ドル):UCI規格に縛られない、トライアスロン専用のエアロヘルメット。

    横風(10〜20°)で最大12Wの削減をうたう

  • Zwim(450ドル+年100ドル):パワーと手の角度を測れるパドルを使った、陸上用のスマートスイムトレーナー


市民トライアスリートへの判定

  • ◎ 真似する:ナトリウム補給の強化とバイクでの前倒し補給。まずは自分の汗の量と塩分の損失を知ることから

  • △ 様子見:最新エアロバーや専用ヘルメット。効果はあるが高価なので、ポジションが固まってから

  • ◎ 安くできる工夫:ドリンクの断熱。保冷ボトルやカバーで代用できる


まとめ:ロードは「燃料を足す」、トライアスロンは「失うものを管理する」

2026年のトレンドを並べてみると、ロードとトライアスロンで進化の方向が違うのが見えてきます。

ロードは炭水化物の大量摂取や乳酸ジェルのように、体に入れる燃料を増やす方向に進みました。

一方、トライアスロンは汗で失うナトリウムや体にこもる熱をどう管理するか、という方向に進んでいます。

| 補給 | 糖の2種配合で60g/hから段階的に/ナトリウム補給 | 乳酸ジェル/重炭酸ナトリウム | | トレーニング | 暑熱順化/練習時間に合った強度配分 | 深部体温センサー/低ケイデンス練習 | | 機材 | ワイドリム+太めタイヤ/ドリンクの断熱 | ショートクランク/最新エアロバー |


2027年はどうなる?(筆者の予想)

  • 乳酸ジェルの「答え合わせ」:Enervit、ExoLactateに続き、

    マラソンでも話題になったSantamadreなど新ブランドが参入しそうです。

    人間を対象にした研究が進み、本物か一過性のブームかがはっきりするでしょう

  • 補給のパーソナライズ:「1時間何g」という一律の目標から、個人の吸収能力に合わせた設定へ

  • UCIのヘルメット新規格:新しい認証制度が2027年1月以降に導入される予定で、各社の新モデルが出そろいそうです

  • トライアスロン専用機材の加速:コナの単日開催復活とSalomonの冠スポンサー就任で、

    シューズや冷却ギアの開発が活発になりそうです


プロの最新トレンドは魅力的ですが、まずは「基本の補給」と「暑さ対策」から取り入れるのが、

私たち市民ライダーにとっての近道です。



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